教育漢字に見る概念の深化 (3年生編)


 教育漢字に見る概念の深化 (1・2年生編)

 思っていたより間が空いてしまった。さっそく3年生編を。

3年生(計200字)

悪 安 暗 医 委 意 育 員 院 飲 運 泳 駅 央 横 屋 温 化 荷 開 界 階 寒 感 漢 館 岸 起 期 客 究 急 級 宮 球 去 橋 業 曲 局 銀 区 苦 具 君 係 軽 血 決 研 県 庫 湖 向 幸 港 号 根 祭 皿 仕 死 使 始 指 歯 詩 次 事 持 式 実 写 者 主 守 取 酒 受 州 拾 終 習 集 住 重 宿 所 暑 助 昭 消 商 章 勝 乗 植 申 身 神 真 深 進 世 整 昔 全 相 送 想 息 速 族 他 打 対 待 代 第 題 炭 短 談 着 注 柱 丁 帳 調 追 定 庭 笛 鉄 転 都 度 投 豆 島 湯 登 等 動 童 農 波 配 倍 箱 畑 発 反 坂 板 皮 悲 美 鼻 筆 氷 表 秒 病 品 負 部 服 福 物 平 返 勉 放 味 命 面 問 役 薬 由 油 有 遊 予 羊 洋 葉 陽 様 落 流 旅 両 緑 礼 列 練 路 和


 特に目につくものから挙げていく。概観ということで、200字すべては引用しない可能性がある*1


第一の特徴 抽象的な属性を記述する用語が増える

  • 礼 幸 福 祭 神 平 和 悪 世 界

 特に「神」と「祭」、「平和」「幸福」「世界」には注目すべきだろう。そして「悪」が出ても「善」はまだ出てこない*2ことにも触れておきたい。「悪」のほうが「善」よりも理解しやすいのかもしれない。


第二の特徴 人の生命に関わる語が出る

  • 死 薬 命 病 院

 上と関連して、このあたりの語の充実が目立つ。おぼろげに生命を浮かび上がらせる構図が垣間見えるように思う。


 漢字とは話が逸れることを前置きした上で、少しこのあたりの話を引いておく。

 3年生とは、時期的に第一次性徴と第二次性徴の境目に位置する、人格形成上重要な時期だ。また、現行の学習指導要領(平成10年度改訂)の体育の項目によると(強調引用者)

〔第3学年及び第4学年〕
 1 目標

(1) 各種の運動の課題をもち,活動を工夫して運動を楽しくできるようにするとともに,その特性に応じた技能を身に付け,体力を養う。
(2) 協力,公正などの態度を育てるとともに,健康・安全に留意して最後まで努力する態度を育てる。
(3) 健康な生活及び体の発育・発達について理解できるようにし,身近な生活において健康で安全な生活を営む資質や能力を育てる。

 となっており、総合的に「生命」への好奇心を促す教育がなされていることがわかる。ここに限らず、漢字配当は常に学習指導要領の内容とリンクしているので、適宜見比べると面白い。このあたりは4年生でもう一度触れる予定。



 閑話休題


第三の特徴 基準を定めて比較した位置づけを示す語が増える

  • 次 期 倍 予 両 昔 等 化 第 相 全 反 央 他 度
  • 階 級 業 号 章 列 式

 接尾・接頭によって語の意味を拡大したり、属性を与えたりするものが増える。特に「化」「他」「全」「度」あたりは強烈な語だ。「昔」をここに入れたのは、「今」抜きでは成立しない概念のため。
 意外なことに、この方向性の語は1・2年生ではほとんど見られない*3


 第四の特徴 学問に有効な語句が記述できるようになる

  • 問 題 研 究 真 実 発 表 対 談 丁 (度) 写 事 勉 委

 漢字の順序は意図的に並べた(「度」は再掲)。
 子どもは3年生になってようやく問題や研究や真実、事実を知るのだ! そして発表したり対談したりする。ここで一気に社会的になると言ってもいい。


 第五の特徴 社会的な役割について記述できるようになる

  • 農 役 商 医 屋 係 局 宿 駅 都 県 路 所 州 館 庫 区
  • 者 員 主 宮 君 族 客 様 童

 上の段は公共施設などに使われがちな語が多く、下の段は人の属性を表すときに多く用いられる語句。3年生は、生活科が理科と社会に分岐する学年なので、そのあたりも影響しているだろう。礼・神などと合わせて、敬意や礼儀などについて記述できそうになってくるのもこのあたりの語のおかげだ。


 第六の特徴 動作が目的によって使い分けられて個別に動詞化する

  • 進 急 去 運 追 送 向 集 登 着 旅 落

 上の一列はすべて「何か(主に人間)が移動する」ことを表す動詞群である。これらの語句が使い分けられることこそ、動詞の深化の証左ではないだろうか。


 2年生のときにもあった「抽象的で、動作そのものを指さない動詞」もさらに増える。

  • 始 終 消 負 勝 想 守 助 返 代 打 意 感 遊
  • 飲 泳 開 転 乗 流 使 持 仕 事 注 決 待 曲
  • 拾 取 整 配 重 習 調 住 申 動 定 起 放 受 投 育 植

 「勝負」と同時に「助」「守」が入っているのは興味深い。
 また「仕事」「決定」「運転」「注意」などが作れることにも触れておく。
 万能語「使う」「動く」も3年生で出てくる語。


 あとは大雑把に、
 「今までの概念が深まる・細分化する」

  • 氷 湯 波 湖 炭 銀 鉄 洋 陽 港
  • 根 羊 葉 畑 岸 島 坂 庭 板 柱
  • 荷 橋 球 服 酒 豆 皿 笛
  • 指 歯 鼻 身 血 油 皮 息 味 面
  • 昭 漢 秒

 ものと、

 「形容詞が増える」

  • 安 暗 温 暑 寒 苦 軽 速 悲 短 美 深

 ということぐらいだろうか。


 この大雑把グループの中で注目すべきは「血」と「苦」、「悲」と「美」だと思う。
 中でも「美」は非常に微妙な語で、というのは「美」はまったくもって「体感的」ではないからだ。
 苦しい、熱い、などは直接脳に刺激として伝わるし、楽しい*4・悲しいもかなり切実なものとして感じられるけれど、「美」は基本的にそのようなものではない*5
 しかし、3年生の段階で「美」を知るというのは、やはり「美」は人間にとって根本的だということなのか。ううむ。「羊」を3年生で教わることも少しは関係しているのかもしれない。



 なんとなく散漫な印象になってしまった。4年生もなるべく来週末にはまとめたいと思う。
 私的な話、この漢字配当を記事にしようと思ったのは4年生の配当表が面白すぎたからなので、4年生編では少し気合をだだ漏れさせて、ぼろぼろと個人的な印象を書くつもりでいる。

*1:チェック面倒なんですよ。全部が厳密に区分できるわけでもないし。と言い訳。

*2:6年生で習う

*3:例外は2年生の「組」「台」など。「一年」は年そのものを数えるが、「一組」は「○○の組」を数えることに着目する。

*4:2年生

*5:と私は思っているのだが、一部の人々にとっては美も体感的なものなのだろうか